正論なのに、なぜか冷たいと言われてしまう理由

エッセイ

この文章を書くきっかけになったのは、
少し前に、娘と仕事のことで言い合いになってしまった出来事だった。

将来のことを考えて、現実的な話をしたつもりだった。
選択肢やリスクも含めて、今の状況を整理し、
「知っておいたほうがいいこと」を伝えたつもりでもあった。

けれど、会話は途中から噛み合わなくなった。
自分としては、間違ったことを言っている感覚はない。
それでも、相手の反応はどこか硬くなっていった。

最後に返ってきたのは、
「そういう言い方をされると、冷たく感じる」
という言葉だった。

正論のつもりだった。
それなのに、冷たいと言われる。
このズレは、いったいどこから生まれたのだろう。
その答えが、しばらく頭から離れなかった。

このエッセイは、
そのとき感じた違和感を、自分なりに整理し直したものだ。
もし、
「正しいことを言っているはずなのに、なぜか伝わらない」
そんな経験がある人がいたら、
考えるための材料のひとつになればと思っている。


「正論なのに冷たい」と思われやすいかを確かめるチェックリスト

なぜ冷たく思われてしまうのか。
自分なりに振り返りながら、
いくつかの傾向として整理してみた。

以下は性格の良し悪しを判断するものではなく、
会話の中で、自分の意識がどこに向きやすいかを
確かめるためのものだ。

  • 相手の話を聞くと、感情より先に状況や結論が浮かんでしまう
  • 気持ちを受け止める前に、選択肢や改善案を考えてしまう
  • 共感の言葉より、つい説明や整理を先に口にしてしまう
  • 感情的な話題でも、受け答えのトーンがあまり変わらない
  • 「今はそういう話じゃない」と言われたことがある

いくつ当てはまっても、
共感が足りないという話ではない。

むしろ、
早く理解しようとしている。
何とか役に立ちたいと思っている。
その姿勢が、会話の順番によっては
冷たく見えてしまうことがある、
というだけの話なのだと思う。


正論が冷たく聞こえてしまう理由

正論が冷たく聞こえてしまう理由は、
内容そのものよりも、
「どのタイミングで出てきたか」にあるように思う。

人が誰かに話をするとき、
頭の中では、いくつかの処理が同時に進んでいる。
起きた出来事に対する感情の整理と、
状況や事実をどう理解するかという整理だ。

会話の初めの段階では、
感情のほうがまだ言葉になりきっていないことが多い。
不安や迷いを抱えたまま、
とりあえず話している、という状態も珍しくない。

そんなときに正論が返ってくると、
その内容を吟味する前に、
「気持ちを置いていかれた」と感じてしまうことがある。

正論が間違っているわけではない。
ただ、感情の整理が追いついていない段階では、
助言というより、
会話を打ち切られたように受け取られてしまうことがある。


正論をどう扱えばいいのか

正論が冷たく聞こえてしまう場面で、
大切なのは、言い方を工夫することよりも、
「今、何を求められている場面なのか」を考えることだと思う。

会話の中で相手が求めているものは、
必ずしも答えや整理とは限らない。
まずは、自分の感じていることを
そのまま受け止めてもらえることが
必要な場合も多い。

たとえば、
仕事のことで悩んでいる人が
「このままでいいのか不安だ」と話しているとき。
選択肢を挙げたり、改善策を考えたりすることもできる。

けれど、その不安がまだ言葉になりきっていない段階では、
正論は助けではなく、
話を終わらせる合図のように受け取られてしまうことがある。

ここで必要なのは、
正論を言うか、言わないか、という二択ではない。
いったん置いておく、という判断だ。

相手が気持ちを話し切り、
少し落ち着いたあとであれば、
同じ言葉でも、受け取り方は変わる。

正論は、関係を正すためのものではなく、
状況を整理するためのものだ。
使う順番を間違えなければ、
冷たさではなく、助けとして届く。


正論の前に必要だったもの

ここまで書いてきて、
あらためて思い出すのは、
最初に触れた娘との会話のことだ。

私は、娘の将来を思って話していた。
現実的な選択肢や、避けられないリスクを整理し、
伝えるべきことは伝えたつもりだった。

ただ、その場で娘が求めていたのは、
正しさの整理ではなかったのかもしれない。

正論が冷たく聞こえてしまった理由は、
言葉の内容ではなく、
順番を急ぎすぎていたことにあったように思う。

正論は、
相手をどうでもいいと思っているから出てくるものではない。
むしろ、ちゃんと向き合おうとした結果、
出てくることのほうが多い。

ただし、そこには順番がある。

あのとき必要だったのは、
もっと上手な説明ではなく、
正論を急がない、という判断だったのかもしれない。

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